『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』

これは、私の思い出の記録でもある

私は、唐十郎率いる唐組の劇団員だった過去があるのだけど、そのことをあまり言わないようにしてきた。
もちろんプロフィールには書くし、聞かれれば答えるけど、その時にはなるべくさりげなく、感情を抑えて答えるようにしていた。
なんでかっていうと、怖がられるから(笑)
唐組にいた女は、世の中ではあまりよろしい感じではないらしい(特に、映像関係の世界においては…)
そんな封印してきた、唐組時代をこの映画 「シアトリカル」は、見事に(?)記録してくれた。
私の同期のちゅじくんが(辻孝彦)が、入団18年目らしいので、私がもし残ってたらそんなになるらしい。
という事は、やめてから大分たった。
なのに

いや~、何もかも変わっていなくて、びっくりするというか、懐かしいというか…
だから、これは私の思い出の記録でもあるのだ。
稽古が終わって、さー帰るぞ~って思った時に宴会が始まる時の、嫌な気分。
正月の山中湖。
宴会でかならず歌を歌わされて、ダメだと怒鳴られる事。
唐さんの戯曲ができて、それを初めて聞く日の事。
手書きの台本。
テント作業。
昼間のテントの中の、赤い風景。
お米の研ぎ方から、旅公演中のバラ飯(劇団員がバラバラでご飯に行くこと。いつもは、皆で自炊してご飯食べてるから)の金額が500円の事、トラックにロープをかけるときの掛け声まで、なにもかもが変わってなかった。
変わったのは、劇団員がすごく少なくなっていた事と、唐さんが思いがけず年をとっていたこと。
劇団に入ったばかりの私は、毎日が辛くて辛くて、一ヶ月間毎日泣きながら、自転車こいで帰っていた。
今思えば、あの頃はなんて子供で、怠け者だったんだろう。
なんて不真面目に芝居をしていたんだろう。
今あの時に帰ったら、今の私だったら楽しんでやれるんだろう事も、嫌で嫌でたまらなかったなあ。
芝居の事もどれくらい毎日考えてたかなあ。
唐さんの思いなんてまったく知らなかったし、気にもしてなかったかもな。
あんなに、唐さんの芝居が好きだと思っていたのに、わかっていなかったんだよなあ

この映画をこれから観る人のために詳しくは書かないけど、これはドキュメンタリーという名の、ドラマである。
なので、ウソンコのシーンもある。
一緒に行った友達に、「なんか芝居っぽいよね~」と言っていたらみごとにそれがウソンコシーンだった(笑)
(さ~、どこが作り物のシーンでしょう??)
しかし、どこまで嘘っていうか、ドラマっていうか…
そもそも、唐さんという人は、虚構と現実の境目のない人なんだよ。
「面白い本を読んだ」ってストーリーを色々話してくれて、それ読みたい!って思って同じ本を買って読むんだけど、そんなシーンなんて1つもなかったり。
唐さんのお母さんも「私なんて何回死んだ事にされたか!」って言っていたし(笑)
唐さんが、お客さんと喧嘩しちゃう時に、唐さんをたしなめる人、お客さんにくってかかる人とまるで取り調べ刑事のように、役割分担が決まってたり。
唐さんとの毎日は、シアトリカルなのだ

唐さんって人そのものが役者だから!!
そして、この映画は、「俳優とは?」ってシーンから始まるのだ

切れて怒鳴った後に見せるあのニヤリ笑い。
あれだって、どこまでが本当でどこまでが嘘なのか。
久保井さんが映画の中で言ってたけど、唐さんが「(唐組で何か残るとしたら)唐十郎しか残らない」って言ったそうだ。
苦笑してたけど、そんな風に言われてもずーっと唐さんと一緒にやっていってる劇団員達。
この人たちは、世の中の役者達の不安をぜーんぶ抱えて、それをやすやすと乗り越えてしまっている。
金がないとか、売れたいとか、結婚したいとか、そんなのぜーんぶおいといて、とにかくこの芝居がすき~~って言う気持ちだけで生きていってしまった人達。
かつては私も一緒にいたのに、とても遠いところにいる人達。
大好きな人達。
久保井さんが昔言ってたな「天才のまわりにいる奴が天才だよ」って。
天才は、もしかしたら天災かもしれないけど(笑)
なんか、この映画観てたら、今の今まで唐さんと一緒にいたような気がした。
唐さんの笑顔が、私に向けられてたような気になった。
ま、明日また怒鳴られるんだろうけど(笑)
写真は、温玉冷やしぶっかけ&えび天

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